ある日、欠かせない社員から「しばらく治療に専念したい」と相談を受ける。 本人の体調はもちろん心配だが、経営者や管理職の頭には、業務の引き継ぎや人員配置、復帰後の働き方など、さまざまな課題が浮かぶのではないだろうか。 「無理をさせてはいけない。しかし、どこまで配慮すればよいのか」 「本人を大切にしたいが、周囲の社員に負担が偏るのも避けたい」 こうした場面で必要になるのが、復職支援と、治療と仕事の両立支援である。 大切なのは、善意だけで対応しようとしないことだ。判断基準や相談ルートをあらかじめ整えておくことで、本人だけでなく、上司や同僚、そして会社そのものを守ることができる。
1.復職支援と両立支援の違い
復職支援とは、病気やけがなどで一定期間仕事を離れた従業員が、安全に職場へ戻り、再び働ける状態を整える支援である。
一方、両立支援は、治療を続けながら働く従業員を支える取り組みだ。通院に合わせた勤務時間の調整、業務量の見直し、在宅勤務などを組み合わせ、治療か仕事かの二者択一に追い込まないことが目的となる。
厚生労働省も、治療のために離職することなく、適切な治療を受けながら働き続けられる環境づくりを企業に求めている。
復職支援が「職場へ戻るまでと戻った後」を支えるものだとすれば、両立支援は「働き続けられる状態」をつくるものと考えると分かりやすい。
2.なぜ企業に支援体制が必要なのか
休職や離職は、一部の企業だけに起こる特別な問題ではない。
厚生労働省の令和6年労働安全衛生調査では、過去1年間にメンタルヘルス不調によって、連続1か月以上休業した従業員、または退職した従業員がいた事業所は12.8%だった。およそ8事業所に1事業所で起きている計算になる。
病気やけがによる離職は、本人にとって大きな損失であるだけでなく、企業にとっても、経験や技術、顧客との関係を失うことにつながる。
採用によって人数を補うことはできても、その人が積み重ねてきた知識まで、すぐに補えるわけではない。
復職・両立支援は福利厚生の一つではなく、人材を守り、事業を継続するための経営基盤なのである。
また、健康経営優良法人2026の評価項目においても、仕事と治療の両立支援に関する基本方針や社内ルール、相談体制などが確認されている。
3.企業が整えておきたい4つの取り組み
①相談窓口と対応手順を決める
最初に相談する相手が分からなければ、従業員は体調が悪化するまで問題を抱え込んでしまう。
人事、上司、産業医、外部相談窓口など、それぞれの役割を整理し、「誰に相談すれば、どのように支援が始まるのか」を社内に伝えておく必要がある。
②個別の支援プランをつくる
同じ病名でも、必要な配慮は人によって異なる。
主治医や産業医の意見を踏まえ、勤務時間、業務内容、通院予定、復帰日、見直し時期などを整理する。厚生労働省は、両立支援プランや職場復帰支援プランの様式例も公開している。
③段階的に戻れる働き方を用意する
復帰初日から以前と同じ成果を求めれば、再休職のリスクを高めかねない。
短時間勤務、時差出勤、在宅勤務、業務量の調整など、状態に応じて段階的に働ける選択肢を用意することが重要だ。
④受け入れる上司を孤立させない
制度があっても、実際の対応が直属の上司に任されていれば、支援はうまく進まない。
本人への声のかけ方、周囲への説明、業務配分の方法を、人事や専門職と一緒に考える体制が必要である。支援する側にも支援が必要だ。
4.支援を形だけの制度にしないために
復職・両立支援で難しいのは、「配慮すればするほどよい」とは限らない点である。
過度な配慮が本人の役割を奪うこともあれば、周囲への説明が不足し、不公平感を生むこともある。
だからこそ、本人の希望だけ、会社の都合だけで決めず、医学的な見解と職場の実情をすり合わせながら、一定期間ごとに支援内容を見直していく必要がある。
制度を一度つくって終わりにせず、対話を続けながら調整する。その姿勢が、実際に機能する支援をつくる。
まとめ
復職・両立支援は、休職者が出てから急いで考えるものではない。 相談窓口、対応手順、勤務制度、管理職への教育を事前に整えておけば、いざというときにも、感情や属人的な判断だけに頼らず対応できる。 まずは自社の就業規則や相談体制を確認し、「従業員から治療の相談を受けたとき、誰が何をするのか」を一枚の流れ図にまとめてみてはどうだろうか。 すべてを一度に制度化する必要はない。外部のカウンセラーや産業保健スタッフと連携し、相談窓口や管理職面談から始めることも選択肢の一つである。 人が休むことを防ぐだけではなく、休んでも戻ることができ、治療を続けながら働ける会社をつくる。 その安心感は、支援を受ける本人だけでなく、今働いているすべての従業員に伝わっていく。








