「ワーク・ライフ・バランス」と聞くと、残業を減らす、有給休暇を取りやすくする、育児中の社員に配慮するといった話を思い浮かべる方も多いかもしれません。
もちろん、それも大切です。
ただ、経営者やマネジメント層にとって、もう一段深く考えておきたいことがあります。
これからのワーク・ライフ・バランスは、社員のためだけの制度ではなく、「人が働き続けられる会社をどうつくるか」という経営そのものの課題になっているということです。
1.ワーク・ライフ・バランスとは何か
内閣府は、仕事と生活の調和が実現した社会を、働く人が仕事上の責任を果たしながら、家庭や地域生活でも、人生の段階に応じた多様な生き方を選択・実現できる社会としています。
そして目指す姿として、
「就労による経済的自立」
「健康で豊かな生活のための時間」
「多様な働き方・生き方」
の3つを掲げています。
興味深いのは、内閣府自身がワーク・ライフ・バランスへの取り組みを、企業にとっての単なる「コスト」ではなく、人材の確保・育成・定着や生産性向上につながる「明日への投資」と位置づけていることです。
つまり本来、仕事を減らして生活を優先するという話ではありません。
人が長く力を発揮できる状態を、会社と働く人の双方でつくること。
これが経営におけるワーク・ライフ・バランスではないでしょうか。
2.なぜ今、経営課題として考える必要があるのか
理由のひとつは、働く人そのものが減っていることです。 総務省統計局によると、2026年2月時点の15~64歳人口は7,342万7千人。前年同月から12万1千人減少しています。 採用すれば補充できる時代から、今いる人が働き続けられる環境をどうつくるかが企業の競争力を左右する時代へ変わりつつあります。 家庭のあり方も変化しました。総務省「労働力調査」をもとにした労働政策研究・研修機構の集計では、2024年の共働き世帯は1,300万世帯。一方、いわゆる専業主婦世帯は508万世帯でした。 働く人の背景には、育児、介護、通院、学び、地域での役割など、それぞれの生活があります。 「会社に合わせられる人だけを採用する」という発想では、人材の選択肢そのものを狭めてしまいます。
3.「休ませる」だけでは十分ではない
では、残業を減らし、有給休暇を増やせば解決するのでしょうか。
厚生労働省の2025年就労条件総合調査では、2024年の年次有給休暇取得率は66.9%となり、1984年以降で最も高い水準となりました。
また、国土交通省の令和6年度調査では、雇用型就業者のうちテレワーク経験者は全国で24.6%。働く場所の選択肢も、コロナ禍以前より広がった状態が続いています。
制度は確実に変わっています。
それでも、制度があるだけでは人は定着しません。
休みを取ったら周囲に申し訳ない。
子どものことで早退すると評価が下がりそう。
上司が遅くまで働いているから帰れない。
仕事量は変わらないのに「残業するな」と言われる。
こうした職場では、制度と現実の間にズレが生まれます。
経営者が見るべきなのは、「制度があるか」だけではなく、社員が実際に使える状態になっているかです。
4.働き続けられる会社が持つ強さ
ワーク・ライフ・バランスを考えることは、社員を甘やかすことではありません。
むしろ、
「この仕事は本当に必要か」
「特定の人に仕事が集中していないか」
「長時間働くことでしか成果を出せない仕組みになっていないか」
「家庭事情が変わっただけで、優秀な人が辞めざるを得なくなっていないか」
と、組織の仕事の進め方そのものを問い直すことです。
人手不足の時代には、採用力だけでなく定着できる力も企業の実力になります。
働く人が生活を犠牲にしなくても成果を出せる会社は、結果として、多様な人材が能力を発揮しやすい会社でもあります。
まとめー「続けられにくさ」を一度見てみる
ワーク・ライフ・バランスというと、大きな制度改革を想像しがちです。
けれど、最初から制度を増やす必要はないのかもしれません。
まずは、
「うちの会社で、優秀な人が働き続けにくくなるのはどんなときだろう」
と考えてみてはいかがでしょうか。
残業時間、有給取得率、育休復帰率といった数字を見ることもひとつ。
もうひとつは、社員がどんなときに疲れ、どんなときに「この働き方を続けるのは難しい」と感じるのかを聞いてみることです。
制度をつくる前に、現場の声を知る。
そして、働く人に生活を会社へ合わせてもらうだけではなく、会社側も仕事の設計を少し変えてみる。
ワーク・ライフ・バランスを、福利厚生ではなく「人が長く力を発揮できる会社をつくるための経営戦略」として、一度見直してみてはいかがでしょうか。








