「やるって言ったのに、もうやらないのか?」
これは、ある発達グレーゾーンの子どもに対して、母親がこぼした言葉です。
自分から「やりたい!」と始めたのに、すぐに投げ出してしまう。その一方で、好きなことには夢中になり、情報を集めて人に語る姿がある――。
この構図は、大人の職場でも見かけるのではないでしょうか。
社員が新しいプロジェクトに意欲を見せたはずなのに、気づけば関心が薄れ、結局動かない。マネージャーとしては、どう関わるべきか悩ましい問題です。
そこで今回は、行動定着や内発的動機づけを支援するために有効な「好き」から始めるアプローチについて、脳科学や行動心理の観点を交えて考察してみます。
目次
Toggle1. 行動が続かないのは、本人の意志の弱さなのか
マネジメント層が最も悩むのは、社員の「最初はやる気を見せるのに続かない」状態です。
目標も共有し、本人の意思でスタートしたのに、日が経つにつれて熱が冷める。これは意志の弱さだけでなく、「行動の仕組み」が整っていないことが原因です。
2. 脳の「やる気回路」とモチベーション維持の構造
モチベーションの維持には、報酬系と呼ばれる脳内回路が大きく関わっています。特にドーパミンの分泌は、期待感や達成感と結びつき、次の行動を促します。
ADHD傾向にある人々(あるいは傾向がない人でも注意分散型の人)では、ドーパミンの伝達が不安定で、継続的な達成感やフィードバックがないと行動が止まりやすいことが分かっています(Barkley, 2015)。
つまり、行動を続けるには「結果が感じられる仕組み」や「興味を持てる導線」が必要であり、それが整っていないと、意志だけで継続させるのは困難です。
3. 「インプットからアウトプットへ」の導線設計
学習心理学では、インプット(読む・聞く)よりもアウトプット(話す・書く・行動する)のほうが記憶や定着に効果が高いとされています。
RoedigerとKarpicke(2006)の研究によると、テスト(出力)を通じて記憶したほうが、読み直しよりも学習定着率が高まることが示されています。
この原則を職場に応用するなら、「読ませる・聞かせる」だけでなく、「語らせる・書かせる・やらせる」機会を設計することが重要です。
特に、本人の関心分野や得意領域を起点に小さな成功体験を積ませることで、自己効力感(self-efficacy)が高まり、行動の継続性が生まれやすくなります。
4. マネジメントにおける「好き」起点の育成戦略
実務においては、以下のようなステップで「好き」や関心を起点に行動定着を図ることができます。
観察: 社員が自然に時間をかけて取り組んでいる業務や話題を把握する
接続: その関心を既存業務やプロジェクトの一部に結びつける
出力: 発表・共有・実行の場を提供し、成果が目に見える状態を作る
フィードバック: 行動に対して具体的かつ即時の反応を返す
特に重要なのは、関心を起点にした「任せ方」の工夫です。無理に業務を当てはめるのではなく、関心領域から得た知識や視点を、周囲への提案や共有の機会として活かすように設計することで、本人にとっての意味付けが生まれます。
5. まとめ:行動定着に悩んだら、まず「好き」から始めてみてはどうでしょうか?
部下や社員の行動が続かない。そんなとき、「もっと頑張れ」と背中を押す前に、その人の「好き」「得意」「自然と没頭すること」に注目してみてはどうでしょうか?
興味分野と業務をつなげる「巻き込み方」を考える
アウトプットの場を設け、見える成果を共有させる
自己効力感を高めるフィードバックと小さな成功を積み上げる
育成とは、力づくで動かすことではなく、自走できる環境を整えることです。
行動定着に苦労している方は、ぜひ「好き」から始まる設計に取り組んでみてはいかがでしょうか。