「気づけば1日が終わっていた」「やるべきことは山積みなのに、何一つ進んだ実感がない」——経営やマネジメントに携わる方にとって、こうした“時間に追われる感覚”は、もはや日常かもしれません。しかし、この“忙しさの正体”を見極め、焦りから解放されることで、本質的な判断力やリーダーシップを取り戻すことが可能になります。本コラムでは、マインドフルネスの視点を取り入れた新しい時間管理法をご紹介し、時間の「使い方」ではなく「在り方」から見直すヒントをお届けします。
目次
Toggle1. 忙しさの正体は「内なる焦り」
経営者やマネジメント層が抱えるストレスの多くは、「外的要因」よりも、「内的焦燥感」に根ざしています。
心理学者アリス・ボイス博士は、著書『The Anxiety Toolkit』で「多くのビジネスパーソンは、達成していないことへの強迫的な思考に支配されている」と指摘しています。常に“先を急ぐ脳”が、実際には必要以上のタスクを自己生成し、時間的圧迫感を生んでしまうのです。
2. マインドフルな時間管理とは何か
マインドフルネスは、いまこの瞬間に意識を向ける技術。
時間管理においても、これを応用することで「ToDoリストに追われる感覚」から、「自分の意思で選び取る感覚」へと変化します。
ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)では、「マインドフルネスを実践する経営者は、意思決定における直感と論理のバランスが向上し、ストレスによる誤判断が減少する」と報告しています(HBR, 2016)。
3. 実践ステップ:時間に“在る”という選択
マインドフルな時間管理を始めるには、次の3つのステップが効果的です。
① 1日の初めに「選択する」
今日やらないことを決める——これは意外にも、最も効果的な時間投資です。やることを増やすのではなく、意図的に「減らす」ことで、焦りのスイッチを切ることができます。
② 5分間の“間”を設ける
重要な会議や判断の前に、あえて5分間、呼吸に意識を向ける時間を確保します。これは、脳の反応性を下げ、思考を一段深くする“マネジメントの余白”となります。
③ 「いま自分は何を感じているか」を記録する
一日の終わりに、短くても構わないので感情と出来事を記録してみてください。焦りや不安のパターンに自覚的になることで、感情に振り回されず時間を選択できるようになります。
4. 時間の使い方を変えると、判断が変わる
時間は限られています。どれだけ効率的に動いても、一日は24時間。その事実は誰にとっても変わりません。けれど、焦っている時と落ち着いている時では、同じ1時間でも密度がまるで違って感じられることがあります。
焦りに呑まれていると、目の前のタスクを「片づけること」ばかりに意識が向き、本当に向き合うべき判断や対話に、集中する余力が残らない。これは、経営やマネジメントの現場で誰しも経験があることではないでしょうか。
スティーブ・ジョブズが「集中するというのは、イエスと言うことではない。多くのノーを言うことだ」と語ったのは、まさにそこです。大切なのは、自分にとって何が本質かを見極め、それ以外にはあえて目を向けない、という覚悟。つまり、“何にノーを言うか”を決める力が、集中をつくる。
しかし、その「ノー」を選び取るには、内側に静けさが必要です。慌ただしさの中では、それが見えにくくなる。焦りを手放すとは、ただ穏やかになることではなく、自分の軸を取り戻すということです。それは、どの判断に責任を持つかを選び取る、リーダーとしての態度にもつながります。
焦りに追い立てられて時間に飲み込まれるのではなく、自分の意思で時間を迎えにいく。そんな姿勢が、組織の中に安心と方向性をもたらしていくのではないでしょうか。
5. まとめ:焦りを手放す選択肢として
日々の忙しさの中で、焦りは静かに判断力を鈍らせ、チームの方向性にも影響を及ぼします。
だからこそ、時間の「量」ではなく、「質」に目を向けるマインドフルな時間管理を取り入れてみてはいかがでしょうか。
それは、決してスピードを落とすことではなく、本当に大切な意思決定に集中するための余白を生み出す選択です。
焦りのない時間には、創造性と信頼が宿ります。
まずは「やらないこと」をひとつ決めるところから、はじめてみてはいかがでしょうか