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他人の視点に立つ力を磨く ― 共感を深めるマインドフルネスのエクササイズ

経営や組織マネジメントにおいて「共感力」は、チームの信頼関係や意思疎通の質を左右する鍵となります。しかし、日々の業務に追われる中で、部下や他者の立場に立って考える余裕が薄れていると感じる方も多いのではないでしょうか。そこで本稿では、リーダーやマネジメント層に向けて、他人の視点に立つ力を高める「マインドフルネス・エクササイズ」を紹介します。共感を深めることで、信頼されるマネジメントを実現する一助となるはずです。

1. 共感力が求められる時代背景

組織の多様化、働き方改革、リモートワークの拡大といった変化の中で、従来のトップダウン型マネジメントの限界が指摘されています。今、求められているのは「聴く力」や「感じ取る力」といった、感受性を伴うリーダーシップです。その土台となるのが「共感力」です。
Gallup社の調査(2022年)では、マネージャーの共感的対応が部下のエンゲージメントに直結していることが明らかになっています。逆に共感の乏しい職場では離職率が高まりやすい傾向があります。

2. 共感とは「感情」ではなく「認知」

共感というと「相手の気持ちに寄り添う優しさ」のように語られがちですが、本質は「相手の視点で物事を理解する」認知的スキルです。つまり、単に「気持ちに共鳴する」だけではなく、「なぜ相手がそう感じるのか」を丁寧に理解する力です。
これは訓練によって高めることが可能であり、その手法の一つがマインドフルネスです。

3. マインドフルネスが共感力を高める理由

マインドフルネスとは「今この瞬間の体験に意識的に注意を向け、評価せずに受け入れる心の態度」です。これにより、自身の反応パターンや思い込みに気づき、他者への無意識の判断を手放す準備が整います。
ハーバード大学の研究(Desbordes et al., 2012)では、マインドフルネス瞑想を継続した被験者において、共感や情動制御を担う脳部位(前帯状皮質や島皮質)の活動が顕著に向上することが示されています。

4. 実践:共感を育てるマインドフルネス・エクササイズ

「他者の視点で想像する3分間ワーク」
以下の手順で実践できます(1回3分で十分です)。

  1. 静かな場所で目を閉じる。
  2. 最近関わった部下や同僚を1人思い浮かべる。
  3. その人の立場に自分を置き、「今、何を考え、どんなプレッシャーを感じているか」を想像する。
  4. 途中で「評価」や「批判」が頭に浮かんだら、それに気づいて再びその人の視点に戻る。
  5. 最後に「この人に今、自分ができる小さな支援は何か?」を考えて終了。
    これを習慣化することで、反応的なコミュニケーションから脱却し、深く関係を築く視座が養われます。

5. エビデンスと実務応用例

■ エビデンス:脳科学と心理学からの裏付け
近年の脳神経科学において、マインドフルネスが共感力や対人スキルに与える効果が数多く実証されています。以下、代表的な研究をご紹介します。

  • Desbordes et al. (2012, Harvard Medical School)
    8週間にわたりマインドフルネス瞑想を行った被験者は、脳の島皮質(感情と共感の中枢)や前帯状皮質(他者理解と衝動制御)において機能的な変化を示しました。これは、共感的理解や感情的安定性の神経的基盤がマインドフルネスによって強化されることを示しています。
  • Singer et al. (2015, Max Planck Institute)
    社会的つながりを意図したマインドフルネストレーニングを実施した結果、共感的配慮(compassion)や行動的共感(empathic concern)のスコアが大きく向上。単なる注意集中よりも、他者を思いやる意図のある瞑想がより効果的であると判明しています。
  • Tania SingerらによるReSourceプロジェクト
    約300人の成人に9か月間マインドフルネス・共感トレーニングを実施。トレーニングを受けたグループでは、ストレス耐性、協調性、対人信頼度が統計的に有意に向上したと報告されています。
    これらの知見は、共感が単なる感情的反応ではなく、脳と認知の構造的なスキルであり、トレーニングによって強化できることを明確に示しています。

■ 実務応用例:企業の取り組みと成果
マネージャーの育成にマインドフルネスを取り入れることで、部下との信頼関係や組織の一体感が高まり、結果として業績や人材の定着にも好影響があったとされています。リーダーシップとは、スキルや戦略だけではなく、「人にどう向き合うか」の在り方に支えられている。その視点から、マインドフルネスが実務に活かされているのです。

① Google社 – Search Inside Yourself(SIY)プログラム

  • 概要:元エンジニアで瞑想実践者のチャディー・メン・タンが開発。マインドフルネスとEQ(感情知能)を融合した社内研修です。
  • 内容:注意力、自己認識、他者理解(共感)を高めるワークに加え、日常業務への応用方法も指導。
  • 成果:
    • 研修受講後、参加者の共感スコアが明確に上昇。
    • チームのコラボレーション、心理的安全性が向上。
    • 離職率が下がり、評価面談の満足度も改善(社内レポートより)。

② SAP社 – グローバル・マインドフルネス・イニシアチブ

  • 導入背景:複雑化する組織構造とグローバル化により、マネージャーのストレス増加とチームの断絶が問題になっていました。
  • 内容:全世界の管理職約6,000人にマインドフルネスと共感的コミュニケーション研修を導入。
  • 成果:
    • ストレスの主観的評価が平均28%減少
    • 部下からの「上司との信頼関係」に関するポジティブ回答が増加。
    • 1年後の部門別パフォーマンス指標で最大32%の改善

6. まとめ:選択肢としての「共感的マインドフルネス」

共感は「生まれつきの性格」ではなく、「磨ける能力」です。そしてその訓練としてマインドフルネスは非常に実践的で導入しやすい方法です。
「部下が何を考えているか分からない」「最近、対話の質が落ちている気がする」と感じている方は、まずは1日3分から、共感的マインドフルネスを取り入れてみてはいかがでしょうか。あなたの姿勢が変われば、組織の空気も確実に変わっていき業績にも影響していくことでしょう。